多発性硬化症(MS)
概要
- 多発性硬化症は多発性硬化症は中枢神経系(脳・脊髄、視神経)の病気です。
- 脳や脊髄せきずい、視神経のあちらこちらに病巣びょうそうができ、症状が「再発」したり「寛解(かんかい)」したりを繰り返す病気です。
原因
- 通常は、脳の情報を伝える“電線”のような働きをする軸索と、それを覆う「ミエリン」があるが、ミエリンが障害され、「脱髄」起きた神経では、情報がスムーズに伝わらなくなるため、様々な症状が現れるようになります。
- 「自己免疫」が関係していると考えられています。(自己免疫とは、通常、ウイルスや細菌などの外敵と戦って自分の体を守るために働いてくれる「リンパ球」などが、誤って自分の細胞を攻撃してしまうこと)
- MSでは、「リンパ球」が何らかのきっかけでミエリンを障害(脱随)させるのですが、そのきっかけが何なのかは、未だ不明です。
症状
視覚障害
視界がぼやける、色がわからない、視野が欠ける、ものが二重に見える など。
感覚障害
痛みや温度がわからない、触覚が鈍くなる 、しびれ感、痛み など。
首を曲げると腰から足にかけて感電したようなしびれ感や痛みが走る「レルミッテ徴候」、痛みをともなって筋がつっぱり、一定時間動かせなくなることがある「有痛性強直性けいれん」がある。
運動障害
手や足に力が入らない、つっぱりのためスムーズに動けない、ろれつが回らない、飲み込みが難しくなる など。
平衡障害・失調・ふるえ(振戦)
まっすぐ歩けない、力はあるが上手に動かせない、動作が遅い、手足がふるえる など。
排尿障害
急にトイレに行きたくなる、排尿を我慢できない、漏らしてしまう、トイレの回数が増える、尿を出しにくい、時間がかかる など。
性機能障害
性感覚の低下、勃起不全、射精不十分(精神的なストレスから起こることもある)
認識・感情の障害
思考速度の低下、記憶力・集中力・判断力の低下、急に泣いたり笑ったりする、抑うつ、常に機嫌が良すぎる など。
疲労・疲労感
動くとすぐ疲れる、動かなくても疲労感が絶えずある など。
治療法
【再発・進行防止のための長期治療】
(再発や進行を未然に抑えることが重要)
脳に蓄積される組織の障害は、多くの場合自覚できないまま長期にわたり、水面下で病巣の蓄積が進行。そのため、症状が出現してからでは治療が困難なことが多く、早期であるほど治療効果が高くなります。
MSの再発進行防止薬には、1ヵ月に1回投与する点滴薬、患者さんご自身で反復注射する注射薬や、飲み薬があります。
【再発・増悪期に行う短期治療】
症状が激しく出ている時期には、病巣の炎症を抑える作用のある副腎皮質ステロイドホルモン(ステロイド)を使用。
点滴用のステロイドを大量に用いる治療(パルス療法)が一般的だが、症状の回復が十分でないときは、続けて経口薬が用いられることもあります。
ステロイドにはさまざまな副作用があり、長期間続けて使うことの効果は証明されていないので、長期間の使用は推奨されていません。
急性の重症悪化の場合や重度の悪化がパルス療法で改善しなかった場合には、人工透析のようなしくみで血液中からMSに関わる物質(抗体など)を取り除く治療法の「血漿交換療法」が行われることがあります。できるだけ早期に開始することが重要。効果には個人差があります。
【特定の症状に対する治療】(後遺症を軽減するための治療)
鎮痛薬、抗てんかん薬、抗うつ薬などが症状に応じて使われることがあり、対症療法と呼ばれる。
薬のほかに、障害を回復・軽減するためのリハビリテーションや、障害された神経組織を根本的にもとに戻したり障害を軽減するための再生・移植医療、ロボット工学により失われた機能を補完する方法などがあります。
再生・移植医療やロボット工学はまだ研究段階で、将来の実用化が待たれます。